「採用に困っていそうな会社」を狙うリストは、人材業界の営業ではほぼ外れる。理由は単純で、そういう会社は既に複数のエージェント・媒体から営業を受けており、レッドオーシャン化しているからだ。本当に効くのは「求人を出しているが長期間埋まっていない会社」「求人媒体を切り替え始めた会社」「採用要件が定期的に変化している会社」を抽出すること。本稿では、厚生労働省の有効求人倍率データを起点に、求人媒体スクレイピング系ツールと営業リスト作成ツールを組み合わせ、“採用ニーズの解像度”で優先順位を引く方法を、失敗事例と実名比較込みで整理する。
この記事の要点
- 「採用に困っていそうな会社」狙いは競合と被る。”困り方の質”でセグメントを分ける
- 厚労省の有効求人倍率と求人媒体の差分データを併用して、業種別の温度を測る
- HRogリスト・バクリス・Sales Marker・IZANAMI を目的別に組み合わせる
Contents
「採用に困っている会社」を狙うリストはなぜ外れるのか
人材紹介・人材派遣・採用支援SaaS・採用代行(RPO)など、人材業界の営業対象は「採用ニーズのある企業」になる。だから多くのチームは「採用に困っていそうな会社」をリストの軸に据える。しかし、“困っていそう”という曖昧な切り口で抽出した瞬間、競合と完全に同じリストを引くことになる。求人媒体を眺めて、求人ボリュームの多い順に並べたリストは、ほぼ同じデータソースから誰でも作れる。
厚生労働省「一般職業紹介状況」によれば、2026年2月時点の全国の有効求人倍率は1.19倍、新規求人倍率は2.10倍と高水準が続いている※1。同月の新規求人を産業別に見ると、卸売業・小売業(17.9%減)や情報通信業(9.5%減)など、減少産業が並ぶ一方で、医療・福祉や運輸業は底堅い。業種別で温度差が大きい局面ほど、ターゲットを絞り込まないリストは失敗する。需要が縮んでいる業種に同じ営業を投げても、当然返信は来ない。
ここから導かれる反直感的な結論は、“困っていそう”ではなく「困り方の質」で切るということだ。求人を出しているか出していないかではなく、求人を出した後にどう動いているかをデータで読む。次章から具体化する。
求人動向データから営業リストを引く3つの軸
人材業界の営業リスト設計では、以下の3軸を組み合わせると、競合と被らない優先順位が出る。
① 求人滞留時間(求人を出してから経過した日数)
同じ職種を90日以上掲載し続けている会社は、媒体の効きが悪くなっている可能性が高い。掲載開始から60日経過後の求人を抽出すると、媒体切替・代行依頼の相談先を探している層と当たりやすい。HRogリスト※2のような求人媒体集約系は、リクナビ・マイナビ・doda・Wantedly・Indeedなどの媒体から日次更新でデータを取得しており、滞留時間の抽出に向く。
② 求人媒体ポートフォリオの変化
使う媒体を絞っていた会社が、急にIndeedやWantedlyに掲載を始めたタイミングは、採用がうまくいっていないシグナルになる。逆に、複数媒体に同時掲載していた会社が掲載媒体を絞り始めたら、内製化・代行依頼へのシフト中の可能性がある。媒体ポートフォリオの動きは、求人ボリュームより“採用課題の質”を表す。
③ 求人内容(要件・給与レンジ・採用フォーム)の変化
同じポジションの求人で、給与レンジを途中で引き上げた、職務要件を緩めた、応募方法を変更した──こうした変化は、求人媒体の効果が出ていない裏返しであり、改善の打ち手を探しているシグナルだ。要件変化を捉えるには、求人の差分監視が必要で、これはBakLis(バクリス)※3のような求人スクレイピング系・求人購入系のサービスで対応できる。
厚労省データと求人媒体データを併走させる
3軸の優先順位を決めるには、マクロ指標とミクロ指標の併走が要る。マクロは厚生労働省「一般職業紹介状況」※1と総務省統計局のデータ、ミクロは媒体スクレイピング系ツールから取る。
具体的な使い方は次の通り。第一に、業種別の有効求人倍率を引いて、需要が高止まりしている業種を絞る。直近1年の動向で、医療・福祉、運輸業、建設業、専門サービス業などはどこも倍率が高水準で推移しており、人材業界からは継続的に攻めやすい。第二に、需要が縮小している産業(卸売・小売、宿泊・飲食、情報通信の一部)はリストから外すか、優先度を下げる。第三に、絞ったセグメント内で求人滞留時間と求人内容変化のシグナルが強い企業を抽出する。マクロでセグメントを切ってからミクロで温度を測る、この順番を逆にすると効率が落ちる。
地域差も無視できない。JILPTの主要労働統計指標※4では都道府県別の倍率が公開されており、地方拠点を持つ人材会社は、自社のカバーエリアと突合してリストを設計し直す価値がある。
業種・職種・規模での優先順位設計
マクロを踏まえた上で、業種・職種・規模の3軸でマトリクスを描くと、リストの優先順位が見える。
- 業種: 医療・福祉、運輸、建設、専門サービス、製造(特に自動車・電機)など、有効求人倍率1.5倍以上の領域は優先
- 職種: 専門的・技術的職業(エンジニア、薬剤師、看護師、施工管理など)は倍率2倍超が常態化※1。単価も上げやすい
- 規模: 従業員30〜500名のミドルレンジが、外部リソース活用への意思決定が早い。1,000名超の大企業は決裁プロセスが長く、契約までの期間が伸びる
さらに、自社の「強い領域」と重なるセグメントから優先する。業界全体のニーズではなく、自社の実績が刺さる象限を最優先すべきだ。リストを引いただけでは商談は前に進まない。提案ストーリーが用意できているセグメントから攻める順番を組む。
優先順位設計のもう1つの観点は“接点の鮮度”だ。直近1年以内に展示会や採用イベントで接点のあった企業、自社のホワイトペーパーをDLした企業、ウェビナーに参加した企業──こうした”温度の高いリスト”を求人シグナルと掛け合わせると、新規開拓の中でも特に高い面談獲得率が出る。マーケ側で蓄積されているリードと、営業側のターゲットリストを別管理にしているチームでは、この掛け合わせが弱い。
失敗事例:求人ボリューム上位100社を全社攻めて返信ゼロだった話
新興の人材紹介エージェントが、リクナビNEXTの求人ボリューム上位100社にフォーム営業を一斉送信し、約3週間で返信ゼロ・面談獲得ゼロだった事例がある。事象を分解すると以下の構造だった。
- 求人ボリューム上位=大手の人材会社・採用代行が既に手厚く営業をかけている
- 送信したフォーム営業は、競合各社のメッセージとほぼ同じ内容(「採用にお困りではないですか」)
- 受信側の人事担当者は1日数十通の人材会社からの営業を受けており、件名すら読まれない
- 結果として、コール/訪問への接続もできずに3週間が終わった
このチームが採った対策は、(a)求人ボリュームではなく「90日以上滞留している求人を出している企業」を新たに抽出、(b)そのうち媒体ポートフォリオに変化のあった企業に絞る、(c)送信文面に「貴社の◯◯求人が90日以上掲載されているのを拝見し」と具体観察を冒頭に置く、の3点。リスト件数は100→27に絞られたが、面談獲得率は0%→約11%まで上がった、と社内で報告されている。件数を絞ってシグナルの強い相手に当てる方が、結果として件数で攻めるより効率がよい。
失敗事例の構造分析を補強する。求人ボリューム上位100社という”見た目に困っていそうな会社”のリストは、競合各社が同じデータソースから抽出している以上、ほぼ確実に重複する。受信側の人事担当者の手元には、同じ営業文面が並んでおり、件名の差以外に意思決定の材料がない。差別化はリスト段階で勝負がついている──文面の工夫で巻き返せる差ではない。
同様の失敗パターンは、新興エージェントだけでなく中堅人材会社でも繰り返し観測される。共通するのは「外注先のリスト購入時にスコア設計を任せきりにしていた」ことだ。リスト作成は外注で構わないが、スコアの定義(何点で誰がアプローチするか)は社内で握る。これがブレるとリストはタダの名簿に劣化する。
実名ツール比較:人材業界向け営業リスト作成ツール
人材業界向けの営業リスト作成ツールは、データソースの違いで大きく3類型に分かれる。
- HRogリスト: 250以上の求人サイトから日次でデータ集約。求人滞留時間・媒体ポートフォリオ・要件変化のすべてに対応する※2。人材業界向けでは最も整備されたソリューションの1つ
- バクリス(BakLis): 求人サイト掲載企業のリスト購入型。Indeed・マイナビ・doda・バイトルなどの媒体を横断※3。リスト購入+差分監視の用途
- Sales Marker: 検索意図データ起点。”採用関連キーワードを社内で検索している企業”を抽出できるため、求人を出す前段階のホット層に当たれる※5
- IZANAMI: 検索意図起点で営業リストを作るタイプ※6。検索意図と求人媒体データの組み合わせで、競合と被らないリストが作りやすい
- PigData: 求人サイト・コーポレートサイトのカスタムスクレイピング。既存ツールでは取れない切り口を作りたい場合の選択肢※7
選定の決め手は、“求人ボリューム”ではなく”取れる差分データ”を見ること。何件取れるかではなく、滞留時間や要件変化が日次/週次で取れるかを評価軸にする。
📩 検索意図起点の人材営業リストを試したいなら
求人媒体ベースのデータに「採用関連キーワードの社内検索」を重ねると、求人を出す前段階の企業を抽出できます。検索意図起点の営業リスト作成ツール IZANAMI なら、HRogリストやバクリスと組み合わせて多軸での抽出が可能です。
フォーム営業の送信フローを自動化したい場合は、AIフォーム営業ツール IZANAGI も併用候補です。
人材業界向け営業リスト設計シート(コピペ可)
■ マクロセグメント(厚労省データ起点) □ 業種フィルタ(有効求人倍率1.5倍以上の業種を優先) □ 職種フィルタ(専門的・技術的職業 / 自社実績のある職種) □ 地域フィルタ(自社カバーエリア) ■ 企業条件フィルタ □ 従業員数:30〜500名(ミドルレンジ優先) □ 設立年数:3年以上(求人運用経験あり) □ 既存人材会社との取引:未確認 OR 直近1年で増減あり ■ 求人シグナル(ミクロ) □ 90日以上滞留中の求人がある □ 直近30日で新規媒体に掲載開始した □ 給与レンジを引き上げた/要件を緩和した □ 応募導線を変更した(自社採用ページのリニューアル等) ■ 商談優先順位スコアリング(合計5点で優先) +1: 滞留90日超 +1: 媒体ポートフォリオ変化あり +1: 給与・要件の動きあり +1: 自社強み領域と一致 +1: 過去取引なし/取引終了から1年以上 ■ メッセージ作成ルール - 件名:観察した具体事実を冒頭に置く - 本文:求人の課題仮説1本+自社の打ち手1本 - CTAは1つ(資料/面談)に絞る
よくある質問
Q. 求人媒体のデータをスクレイピングするのは法律上問題ないか?
A. 媒体ごとの利用規約と著作権法・不正競争防止法の観点を必ず確認してください。求人内容(タイトル・要件等)は媒体側の編集著作物に該当する場合があり、無断の大量取得は規約違反になり得ます。HRogリスト・バクリスのような業界向けツールは、媒体との連携や合法的な取得経路を前提に提供されており、自前のスクレイピングは法務確認後に。
Q. 個人情報保護法・職業安定法との関係で注意すべきことは?
A. 求人企業情報そのものは個人情報には該当しませんが、応募者情報の取り扱いを伴う場合は別の規制が及びます。職業紹介事業を行う場合は職業安定法の許可・届出が必要であり、個人情報保護委員会のガイドライン※8もあわせて確認が必要です。
Q. リスト件数はどのくらいが適切か?
A. 一律の正解はありませんが、月間の営業稼働時間と接触頻度の設計から逆算します。1人当たり週30件のフォーム営業を新規で打つ場合、月100〜120件程度のリストで回り、3か月で1セグメントを使い切ったら入れ替える、という運用が現実的です。件数を増やすほどリスト品質は下がる、というトレードオフを意識してください。
Q. 古い名刺データは活用すべきか?
A. 過去1年以内の接点があるリードは活用余地があります。それ以前の名刺データは、再度の同意取得(リパーミッション)と、求人状況の再確認をしてからのアプローチが望ましいです。古いリストへの一斉配信は、解除率や苦情率を上げる原因になります。
まとめ
人材業界の営業リスト設計は、「採用に困っていそうな会社」を狙うアプローチから、「困り方の質」をデータで読むアプローチへシフトすべきだ。マクロでは厚生労働省「一般職業紹介状況」を起点に業種・職種を絞り、ミクロでは求人滞留時間/ポートフォリオ変化/求人内容差分の3軸で温度を測る。HRogリスト・バクリス・Sales Marker・IZANAMI・PigDataなどを目的別に組み合わせ、件数を追いかけずシグナルの強さで優先順位を決める。件数で攻めるより、シグナルで絞るほうが、人材業界の営業はほぼ常に効く。
参考資料
■ 公的機関・法令
※1 業種別の有効求人倍率・新規求人倍率は一般職業紹介状況|厚生労働省を参照。最新月次データは同省プレスリリースでも公開されている。
※4 都道府県別の有効求人倍率推移は主要労働統計指標|労働政策研究・研修機構(JILPT)を参照。
※8 求職者・求人企業情報の取り扱いに関しては個人情報保護委員会のガイドラインを参照。
■ 業界情報・民間調査
※2 求人媒体集約・人材業界向け営業リストの仕様はHRog|人材業界向け営業リスト作成ツール13選を参照。
※3 求人サイト掲載企業のリスト購入はバクリス(BakLis)公式を参照。
※5 検索意図データ起点のリスト設計はSales Marker 公式を参照。
※6 検索意図起点の営業リスト作成はIZANAMI 公式。
※7 カスタムスクレイピングの活用例は人材会社向け営業リスト作成|PigDataを参照。





